第2章 追い風
さすがに呉服屋の中でまで美味いと言い続けることはなく、更紗は杏寿郎と店主に見立てられ、紺色の生地に裾部分から中央にかけて曼珠沙華が咲き乱れている着物を身にまとっていた。
長い銀色の髪は右側で輪っかを作るようにして纏め、赤い組み紐で止めている。
「見違えたな!よく似合っている!これは母の受け売りだが、曼珠沙華の花言葉は、情熱、独立と言ったものがあるらしい。今の更紗にピッタリの着物だ!」
そう言われてもう一度着せてもらった着物を見る。
(情熱、独立……この着物に負けないように頑張らないと着物が泣いてしまいます!)
密かな決意を胸に小さく握りこぶしを作った。
「ありがとうございます。着物に見合うように努力します」
「うむ!いい心がけだ!よし、人も周りにいなくなった。お館様の屋敷への道順は限られた人しか知る事が出来ない。窮屈かもしれないが、俺が屋敷まで更紗を運ぶ。その間、目をつぶっていてくれ。俺が良しと言うまで決して開けるな。開けた時点で連れて行けなくなるからな!」
更紗とて杏寿郎に世話になっているのだ。
これ以上迷惑をかけたくない一心で大きく頷く。
「では行くとしよう。辛くなったら声をかけてくれ!」
そう言って更紗を横抱きに抱えると、産屋敷邸まで柱である事を認めざるを得ない速さで向かっていった。