第2章 追い風
「何を落ち込んでいる?よく食べる事はとてもいい事だ!体が健康だと言う証だからな!食わせがいがある!美味かったのなら笑っておけ!」
11年間、茶碗一杯の粥と香物という味気ない食事しか出されなかった反動もあるだろうが、平均的な同い年くらいの女子と比べ悠に5倍は食べていた。
「はい!すごく美味しかったです。それに杏寿郎さんの『美味い!』の声も合わさってさらに美味しく感じました」
「そうか!なら、次は更紗も言ってみるといい!もっと美味く感じるからな!」
更紗は満たされた腹をスリスリと撫でながら、小声で『美味い美味い』と次に食事をする時に声を出せるように練習している……無表情で……
世間の常識に疎く素直な性格もあわさって自主的に練習しているが、食事中に大声で美味いと連呼するのはあまり行儀がいいとは言えない。
誰かが優しく教えてくれる事を祈るばかりだ。
(遥かに及ばないものの、甘露寺と似た体質なのかもしれん。甘露寺は通常の八倍の筋肉量ゆえによく食うが、更紗は筋肉量は一般的な女子と一緒くらいだ。あの環境でこの筋肉量は、いささか不可解だが……胡蝶に聞いてみるか)
杏寿郎が更紗をチラリと横目で確認するとまだ『美味い』を懸命に練習していたので、なぜか杏寿郎も『美味い』とこちらは大声で連呼し出した。
道行く人は2人を遠巻きにしているのは言うまでもない。