第2章 追い風
煉獄の心の内の怒りが外に漏れ出しそうだったが、きっと更紗はそれを敏感に感じ取って謝罪を述べるだろうと直感し、呼吸を使って精神を落ち着かせる。
「気付いてやれなくてすまなかった。では、これからは更紗と呼ばせてもらっていいだろうか?」
呼び方を変えるだけで、そんなに嬉しいのだろうかと思うほど更紗が笑顔で頷く。
「ありがとうございます、名前を最後に呼んでもらったのが両親だったので、もう10年以上ぶりです」
「10年以上!?」
サラリと……ご飯食べたいなーみたいな軽い感じで衝撃発言を煉獄にぶつけた。
煉獄からすれば、頭をいきなりガンッと思いっきり殴られたような衝撃だ。
「つまり今までの話を繋ぎ合わせると、両親の元から攫われたか何かで、あの屋敷の中で10年以上囲われていたと言うことか!?」
「そうです。あの屋敷で11年過ごしました。だから、こうして外に出るのも11年振りです」
ニコリと笑顔で話せる内容ではない。
普通ならば心が荒んで、極度の人間恐怖症になる。
心の傷が深い事は随所の言動で感じ取っていたが、それほどの傷があるにも関わらず、見ず知らずの男である煉獄のそばで眠る事さえ簡単にやってのける鋼の精神力を見せつけてきていた。