第2章 追い風
自分の胸に手を当てて更紗がホッコリしている。
「あの、煉獄様。私、今すごく嬉しいと思ってます」
いきなりの発言に煉獄は目を丸くするが、理由が分かって微笑む。
嬉しい事は嬉しいと言うという、煉獄との約束を守っているのだ。
「そうか!俺も月神少女がそうして意思表示してくれて嬉しいぞ!その調子だ」
コクリと更紗が小さく笑いながら頷いた。
「煉獄様、私、お願いがあるのですが……よろしいですか?」
「俺が叶えてやれる範囲なら構わない。どうした?」
「私の苗字、月神と言うのは本来、憑き物の『憑き』を表しているんです。それに神のような力をもつ血筋、と合わさって『憑き神』。でもそのままだと字的に外聞がよくないので、月神に落ち着いたと聞いています」
つまりどういう事だろうと思いつつも、言葉を切ると話さなくなりそうなのでそのまま聞くことにした。
「両親といた時は大好きな苗字だったのですが、あの屋敷では本来の方の悪い捉え方で忌み子、と呼ばれていたので……よろしければ更紗と下の名前で呼んで頂けると助かります」
人間というものは集団になれば、理不尽に個に対して排他的な事をする奴がいる。
(醜いな。この少女の力を利用するだけ利用して、人として扱ってなかった訳か)