第5章 色変わりの刀と初任務
更紗の初めて聞く自分の名前を大きく呼ぶ声に反応し、杏寿郎は立ち止まり後ろを振り向く。
俯いていて表情は見えないが、小走りで更紗が走り寄って行く。
「更紗、何か……」
言い終わる前に手を下に引かれ体がそちらに傾いたかと思うと、そっと唇に柔らかいものが触れた。
一瞬、杏寿郎は何が起こったのかと思ったが、至近距離に更紗の薄紅色に染まる顔を見てようやく理解出来た。
いつも自分からしていた接吻を更紗からして来ていたのだ。
数秒後、更紗が顔を離すと顔を薄紅色に染めたまま、杏寿郎を見つめていた。
「更紗?」
「御守りの代わりです。これで任務を無事に全う出来ます」
フワリと微笑む更紗の体を抱き寄せ、体温を感じ取るように杏寿郎は細い肩に顔をうずめる。
「ありがとう、これで俺も頑張れる。行ってらっしゃい、更紗」
「行ってまいります。杏寿郎さんも行ってらっしゃいませ」
そうして2人は微笑み合って離れると、今度こそ各々の目的地に向かって歩き出した。
互いの無事を祈りながら。