第2章 追い風
結局、煉獄は一睡もすることなく夜を過ごした。
街中とはいえ山の麓であり、鬼がいつ現れるか分からないからだ。
普段なら宿であっても睡眠を摂るが、今は稀血と思われる更紗が一緒なので、匂いに誘われて鬼が迷い込んでくる可能性もいつもより高くなる。
一晩中神経を張り巡らせていたので、朝日が昇ったことにホッと息をつく。
そこへタイミングよく鎹鴉が窓から物音を立てずに滑り込み、静かに着地した。
首にかけられている手紙は二通、お館様と弟の千寿郎からの返事だ。
封を開け、順番に読み進めた。
「千寿郎の方は大丈夫だな。だが、予想通りと言うよりもお館様の方は少し驚いた」
千寿郎からの返事には、準備をしておくので、いつでも更紗と帰ってきても大丈夫とのこと。
お館様からの返事には、更紗が目を覚まし次第、すぐに鬼殺隊本部である産屋敷邸へ赴いて欲しいというものだ。
そこへは柱の1人であり、薬学に長けた胡蝶しのぶも呼んでいるので、更紗の力が鬼殺隊に危険を及ぼすものでないかの判断もさせるとの事だ。
「やはりお館様も胡蝶も、今まで聞いた事のない力だったか。月神少女が鬼殺隊に入隊して、鬼殺隊にとって光明が差す存在になれるよう手を尽くさんといけないな」