第2章 追い風
人間は他の生物より喜怒哀楽を表すことが出来る。
しかし今の更紗は感情の振れ幅が極端に少ない。
鬼殺隊剣士となり、任務をこなすことになれば単独で動くのと同じくらい数人で組んで動くことも多い。
連携をうまく取らなければ、自分のみならず共に戦う剣士の命にも関わってくる。
我儘とは違う意思表示は、これから成長していく過程で更紗には必要になっていくものだ。
「 嬉しい事は嬉しい、嫌な事は嫌……あまり意識したことなかったですが、気をつけてみます」
「うむ!では日が昇ったら出発するので、君は先に休んでいなさい」
更紗が頷くのを確認すると、煉獄は立ち上がって部屋に備え付けられている文机の前に座り書き物を始めた。
その頃、更紗は準備されていた布団に潜り込んで、やはり疲れがあったのかわずか数秒で深い眠りに落ちていく。
「お館様への連絡と、父上と千寿郎へ連絡……数日中にお館様からお声がかかるだろうから、それの準備に……意外とする事が多いな」
文を書き終え鎹鴉へと預けると、煉獄は大きく伸びをして更紗を見やる。
規則正しく小さな寝息を立てて穏やかに眠っている姿が目に入り、ふと目元を緩めた。
「家族の事、力の詳細、あの屋敷の者達との関係性。まだ分からない事も多いが、追々聞いていくか」