第1章 月夜
新月の夜、零れ落ちそうな程の星空のもと、一人の少女を間に挟むようにして、男女が寄り添っていた。
「更紗、君は特別な力を持って産まれてきた。それはとても素晴らしい事で、神様に愛されている証拠だ」
少女、更紗に語る声は、慈しみにあふれており、声音だけで心から愛しているのだと伝わる。
更紗はこの自分の父親の声が大好きであった。
いつも穏やかで、柔らかい春の陽射しのようで、聞いているだけで心が安らいだ。
「じゃあ、この力でお父さんとお母さんを守れるかな?」
「ありがとう、更紗。でもね、あなたの力は素晴らしいけれども、あなたの命にも繋がるものなの。だから、本当に必要な時にしか使ってはいけないわ」
母親は更紗の髪を撫でながら、優しく諭すように言葉を紡ぐ。
更紗はそんな母親の手の温かさを頭に感じながら、気持ちよさそうに目を細める。
だか、母親の言葉に細めていた目を大きく開き、母親に向き直る。
「命に繋がるもの?どうして?」
「更紗が力を使ったあと、体が重くなって動けなくなってしまうでしょう?それでも無理をして使い続けると、あなたの体が耐えきれなくなってしまう」