第2章 追い風
「嫌でなければ、俺から稽古を受けないか?月神少女。俺の生家なら住み込みで稽古をつけられる。家には父と弟が1人いるが、どちらもいい人だから君を受け入れてくれる。稽古は厳しいが着いてこれば必ず強くなれる。誰かに守られるだけではなくなる」
更紗は煉獄の炎のような瞳をじっと見つめて、どうしようかと考えているようだ。
その証拠にユラユラと瞳の色をくゆらせている。
(それに呼吸を使いこなせたなら、おそらく無尽蔵に動ける人間になる。外傷に関しては能力を使わなくては治らないが、皮膚から下の組織は常に回復していて万全の状態が保たれている。本人はそれが当たり前ゆえに気付いていないようだが)
更紗の答えが出るまで逡巡して待っていたが、まだ迷っているようで固まって動かない。
小さな口をハクハクと鯉のように動かし、なにか言おうとしているのは伝わる。
煉獄は困ったように笑いながら稽古をつける理由をもう1つ加えた。
「さっきの鬼が言っていることが正しければ、君は稀血を持っていることになる。稀血は鬼が大層好むから、その点で考えても俺の家にいた方が安全だ」
あの屋敷では考えられない程の人間が殺されていた。
それだけ鬼にとっての食事があるにも関わらず、執拗に更紗を追いかけていたということは、そういう事なのだろう。