第2章 追い風
「自分を大切にする術(すべ)ですか?でも、私は私自身を大切にする程の価値はないと思います。あの方だって、私のせいで殺されてしまいました」
瞼を震わせて視線を落とす。
表情も変わらず涙も出ていないが、酷く自分を責め相手を想い悲しんでいるように見えた。
「では、あの男性は救う価値のない人間の為に無駄に命を落としたと思っているのか?」
今の表情を見ていると煉獄も更紗がそう思っていないのは分かっている。
しかしこのままでは余りにも男性が報われない。
更紗にあの場で死んで欲しくないからこそ、自身の身を投げ出し必死に守ったのだから。
「あの男性は、ただただ純粋に真っ直ぐに君を想い、君に生きて欲しいと願ったから命をかけて助けた。その思いを踏みにじるような言葉を言ってはいけない」
更紗は更に瞼を落とし、体を小刻みに震わせる。
「はい……申し訳ございませんでした」
煉獄は小さくため息をつくと、フワリと微笑んで更紗の頭を優しく撫でた。
視線を上げた更紗の瞳は不安げに揺れている。
「月神少女は、あの様な無条件な愛情を久しく受けていなかったのだろう?だとするならば、そうなるのも仕方がない。理解してくれればいい、謝る必要もない」