第4章 鍛錬と最終選別
「あぁ、構わない」
杏寿郎は座り直し、まだ力が入り切らない更紗の手を握ってやった。
するとあまりにも嬉しそうに顔を綻ばせるものだから、杏寿郎の心臓が激しく胸を打ち付ける。
「杏寿郎さんの手は温かくてホッとします。こうしていただけるだけで、満たされた気持ちになります」
変わらずニコニコする更紗を思わず抱き締めそうになるが、すんでのところで思いとどまる。
その代わりに手を握ったまま、更紗の額に自分の額を横からコツンと軽くあてがう。
「杏寿郎さん?どうされましたか?」
(あと数ヶ月……最終選別まで耐えなくては)
そう心の中で固く思い直し、そのままの体勢で更紗に答える。
「あまり甘い言葉をかけてくれるな。歯止めが効かなくなる」
「杏……寿郎さん?」
そんな小さな更紗の声さえも今の杏寿郎にとっては甘言に過ぎないのだ。
このままでいたい気持ちを振り払い、杏寿郎は更紗の手を離し立ち上がる。
「また夕餉の時にな。それまでゆっくりしているんだ」
そう言い残して杏寿郎は部屋を出た。
一方更紗は、この今の感情がどういったものか分からないが、顔が赤くなるのを感じとり布団の中に潜り込んでいった。