第4章 鍛錬と最終選別
その涙を笑顔に変えてやる術を杏寿郎は持ち合わせていない。
「今は薬学に精通している者でも分からん。ただ、更紗自身が失くしたものは戻らない……と言っていた。自分の体のことだ、失くした命が戻ってくる事はないと直感的に感じていたように思う」
千寿郎はとめどなく流れる涙を手で拭うが、それはあまり意味を成していない。
「どうしてそんな……あんまりです!!どうして毎日笑っていられるのですか?僕なら……笑える自信がありません」
「更紗は、今ずっと泣いて過ごすより、生きている今を笑って過ごし、将来あの時に泣いてばかりでなく笑っていてよかったと思いたいと言っていた」
杏寿郎の今にも涙がこぼれそうな表情に驚き、千寿郎の涙はピタッと止まってしまった。
兄が更紗を好いていることを千寿郎は知っている。
その兄の方が、きっと更紗の境遇に悲しんで苦しんでいると分かってしまったのだ。
「だからこそ千寿郎には共に悲しむのではなく、更紗にいつも通り笑顔でいてやってくれ。それがあの子が望む1番の今なんだ」
杏寿郎の言葉に千寿郎は袖で目元に残った涙をゴシゴシと拭き取り、いつもの杏寿郎のように眉と目じりをキリッと上げる。