第26章 月と太陽
話さない理由を知っている柱たちは僅かに視線を地面へと落とし、朱莉が気付かないくらい短い時間悲しげに瞳を揺らす。
杏寿郎が更紗の前でその話をしないのは、まず間違いなく更紗の奪われた寿命を本人に思い出させるのが憚られるからだろう。
「すげぇ力だった。母ちゃんはなァ、誰かを助けるためにいつも一生懸命で、ここの全員が朱莉の母ちゃんに助けてもらってる」
「そうなの?」
キョトンとする朱莉が皆の心にあるしこりに気付かないよう、誰もが悲しみを感じさせない笑顔で頷いた。
「朱莉、お前の親父にまた聞いてみろ!だがあいつも色々考えて姫さんの前で言ってねぇんだからこっそりだぞ?いいな?」
「うん、なんかよく分かんないけどそうする。でもお父さん、お母さんの力のお話する時すごく悲しそうなお顔するから、本当に知りたいなって思ったら聞いてみる!あっ、エンブ始まるよ!」
流石2人の…… 更紗と杏寿郎の娘。
人の感情の機微を無意識に敏感に感じ取ってしまっている。
そしてコロコロ表情がよく変わるのは更紗譲り。
「本当だ。朱莉ちゃん、こっちにおいで!私と一緒に見よ!」
今度は蜜璃に抱き上げられ、それを朱莉は嬉々として受け入れ蜜璃の足の上にちょこんと腰を落ち着けて実弥に一言。
「実弥お兄ちゃん、抱っこしてくれてありがとう!また抱っこしてね!」
満面の笑みを向けられた実弥が静かに身悶える中、更紗と杏寿郎の演武は開始された。