第26章 月と太陽
皮膚が引っ張られたので間違いなく普通の表情で写っていない。
そして自分たちの周りに並んでいない参列者たちが笑っているところを見ると、普通の表情で写っていないのは自分だけではないはず。
そう瞬時に判断した杏寿郎は自分がどんな顔で写っているかなどどうでもよくなり、隣りにいる普段変な顔とは無縁の少女の顔を確認した。
「少し恥ずかしいですが、皆さん本当に笑顔になりましたね!嬉しい」
はにかんだ笑顔だった。
本当に変な表情をしたのかと疑うくらいに、いつもの見慣れた笑顔である。
「更紗、どんな表情をしたのか再現してくれ!俺も見たい!」
「え?構いませんよ。ではよく見ていて下さ」
「姫さん!」
あと少しで普段見れない更紗の表情が見られたのに天元が大声で呼ぶものだから、表情が変化することがないままに終わってしまった。
「俺らは写真が出来た時の楽しみにしとこうぜ!ほらほら、皆詰めろ。全員いい笑顔なってんだ、早く撮っちまおう。でなきゃ体張った意味なくなるからな!」
「む……俺は強制的に表情を歪められただけなのだがな!まぁ皆が楽しいならば問題あるまい!更紗もいい笑顔だ」
笑顔の参列者に囲まれニコニコと楽しげに笑う更紗の表情に杏寿郎の表情も自然と綻び、ようやく更紗の願い事……皆で写真を撮ることを叶えてあげられた。