第26章 月と太陽
何かしら身の危険を感じた杏寿郎が更紗の肩を抱く腕に力を入れようとする前に、更紗は蜜璃としのぶに……杏寿郎は天元と実弥によって拘束され体を離された。
「更紗ちゃん、抱き上げて動くからしっかり捕まっててね!」
「落ちないようにしっかり見ててあげますからね?」
蜜璃は驚く更紗をよそに返事も聞かずに問答無用で体を抱えあげて庭へと降り立ち、狂い咲いている藤の群生へと歩を進めていく。
それを呆然と見送っていた杏寿郎は杏寿郎で天元に首へと腕を回され脇を実弥に固められて、強制的に更紗たちと同じ方向へと連行された。
「何だ?今から更紗の願い事を叶えるのでないのか?」
「そうだけど?だから藤の花が綺麗な場所に姫さんとお前を連れてってるだろ?」
それだけならわざわざ更紗と杏寿郎を拘束する必要などない。
しかも先ほどの紗那の言葉や、少し遠くにいる更紗へ蜜璃としのぶが何か言い聞かせているのが気になる。
「何か企んでいないか?やけに更紗が神妙な面持ちで頷いている姿が見えるのだが……」
「あいつはいつもあんなんだろォ。それよかお前、顔の筋肉解しとけ」
もう杏寿郎はちんぷんかんぷんである。
願い事を叶えるのに顔の筋肉を解す意味があるはずがないからだ。