第26章 月と太陽
「いかが……でしょうか?」
「いかがも何も……綺麗過ぎて息をするのも忘れていた。本当に綺麗だ。誰にも見せたくないほどに」
杏寿郎は更紗の衣装が崩れないようにそっと抱き締め、滑らかな頬を優しく撫でた。
「嬉しい。でもね、杏寿郎君の方が格好良いいです。私、あまりの眩しさに目眩が起きました」
更紗の瞳に映るのは紋付羽織り袴姿の杏寿郎の姿。
袖口から袂にかけては炎柱の羽織と同じ炎を模した模様が赤で染め入れられており、更紗の希望した通り杏寿郎の為に作られたものだと認識出来る。
「杏寿郎君は白い羽織もお似合いになりますが、黒も同じくらいお似合いになりますね。綺麗な金と赫の髪が映えて……いつまでも見ていたくなります」
「些か褒め過ぎではないか?自分のことを差し置いて……これから祝言で良かった!愛らしすぎて危うく連れ帰ってしまうところだった。さぁ、お姫様、お手をどうぞ。私が会場までお連れさせていただきますよ」
初めて聞く杏寿郎の少しおどけた言葉遣いに更紗は満面の笑みで応え、差し出された手に自分の手を重ね合わせる。
「はい!宜しくお願い致します。炎柱 煉獄杏寿郎様」
今となっては呼ばれなくなった敬称に少しむず痒さを感じながら杏寿郎はその手を引いて、緊張で固くなる更紗を傍らで支え続け無事に祝言を滞りなく終わらせた。