第26章 月と太陽
「……そうだ。屋敷内に助かった者はいなかった。俺も確認したし隠からもそう報告を受けている。更紗、おいで」
槇寿郎の手と揺さぶりから解放された杏寿郎は更紗が身を委ねてくる前に手首を掴み、ふわりと自身の胸に抱き寄せた。
「君は相変わらず自分を責めすぎる。更紗を現世へ繋ぎ止めてくれた時、男性は君に恨み言を言ったか?憎しみのこもった視線を向けてきたか?」
「いいえ。悲しみも苦しみも感じさせない笑顔で……幸せになってって言ってくださいました」
あの短気で自分本位な当主やその姉とは似ても似つかない、とても穏やかで優しい笑顔を思い出した更紗の気持ちは凪いでいく。
こうも心乱れた少女を瞬時に落ち着かせてしまう杏寿郎の姿に、槇寿郎も千寿郎も更に眉を下げた申し訳なさそうな表情で顔を見合わせ、同時に2人へと頭を下げた。
「す、すまない。そなたを悲しませるつもりはなかったのだ。どうも血が上りやすくていかんな……杏寿郎もすまなかった」
「僕も……取り乱してすみませんでした」
気を持ち直した更紗は槇寿郎と千寿郎の突然の謝罪に慌て、しなだれかかっていた杏寿郎の胸から飛び出して居住まいを正す。