第26章 月と太陽
そう言いつつも少し寂しそうな表情をする更紗に杏寿郎は苦笑し、千寿郎は悲しげに瞳を揺らした。
「10年とは攫われていた期間と……奪われた寿命のことですか?」
寿命のことに関しては千寿郎はおろか槇寿郎にも話していなかった。
ただでさえ鬼殺隊の剣士として鬼狩りを生業としていた身の上だったので、あれ以上2人の心的不安を増やすことが憚られたからだ。
それを2人も感じ取っていたから敢えて聞いては来なかった。
しかしこれから近い未来、更紗は煉獄家の一員となる。
今千寿郎が尋ねて来なかったとしても、まず間違いなく槇寿郎が聞いてきていたはずだ。
「攫われていた期間は11年、失ってしまった寿命は10年ほどだとしのぶさんに教えていただきました。千寿郎君、そんな悲しい顔をしなくて大丈夫ですよ!この幸せな瞬間のための年月ですから!あぁ……泣かないで」
「だって……そんな……あんまりじゃないですか!どうして更紗さんがそんな……10年も寿命を失ってるなんて父上が知れば、怒り狂った後に泣き出してしまいますよ!」
千寿郎の言葉に2人は辺りを見回して、思わず槇寿郎がいないかを確認してしまった。