第26章 月と太陽
そして現在、結婚の挨拶を終えた更紗と杏寿郎、千寿郎は瑠火の墓から少し距離の離れた木陰で槇寿郎を待っている。
「素敵なご夫婦ですね。お義父さまを見ているだけで、お義母さまのことがどれほど大切な存在だったのか……伝わりました」
槇寿郎の穏やかで優しい表情、そして恋い慕うも会うことの叶わない憐憫をうつした表情。
その全てが槇寿郎の中で想像も出来ないほどに、瑠火の存在が大きなものだったかを物語っていた。
そして更紗の胸に過ぎったのは自身の寿命。
(私の願いは杏寿郎君にとって残酷なものではないでしょうか?本当に今更ですが……私でいいのかな?)
チラと隣りに座る杏寿郎を見遣ると、久しく見ていなかった鋭い視線をこちらに向けていた。
その表情だけで考えを読まれたのだと理解し、慌てて向こうを見るがもう遅い。
「こら、目を逸らすな。俺は君の寿命の件があってもなくても君を選んでいた。それとどちらにしても俺は更紗を置いていくつもりはない。長い年月……感情が希薄になるほど孤独を味わった君に、これ以上寂しい思いはさせんと決めている」
「杏寿郎君はすぐに私の考えを読んでしまいますね……たった10年です。今の温かく幸せな時間を考えると短いものです。こんなにたくさんの幸せをいただいておいて、その時に寂しいなんて言ったら……バチが当たります」