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月夜の軌跡【鬼滅の刃】

第26章 月と太陽


「ほら、更紗。そんなに泣いてしまっては涙が涸れてしまうぞ」

小さな手拭いを差し出された場所は産屋敷邸の近くにある宿の一室。

あれから皆で昼餉を取り楽しい時間を過ごしたのだが、別れ際に離れるのが途轍もなく寂しくなって涙が止まらなくなってしまったのだ。

「杏寿郎君……胸を貸して……ください」

渡してもらった手拭いで涙を拭きながらズリズリと畳の上を病人のように這いずり寄ってくる更紗に笑みを向け、杏寿郎は体をヒョイと持ち上げて自分の胸の中におさめた。

「もうこれから更紗は何も我慢せず泣き笑って、感情の赴くままに過ごしていいんだ。命を脅かされることも、治癒の力によって辛い思いをすることもない。皆と夕餉を外に食べに行くことも出来る」

なぐさめてくれる杏寿郎の声音はどこまでも優しく、惜別から来る更紗の胸の痛みを包み込みゆっくりと癒してくれる。

「はい。今までもよく泣いていたので……これ以上甘やかされてはワガママになってしまいそうです。ねぇ、杏寿郎君」

涙で濡れる相変わらず柘榴石のような色をたたえる瞳に見つめられ、杏寿郎の頬が意思とは関係なく綻んだ。

「ん?どうした?」

「口付け……してください」
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