第25章 決戦と喪失
更紗の部屋から少し離れた部屋で体を休めていた杏寿郎は、突然の騒音に体を飛び上がらせた。
「な、何の音だ?!宇髄が寝惚けて壁にぶつかった……いや、今の音は人が床に落ちる音だったような…… 更紗か?!」
こうしては居られないと杏寿郎は掛け布団が乱れていることは捨ておき、浴衣の襟元だけを正して足早に部屋を飛び出して更紗が眠っている……転がり落ちたであろう部屋へと足を動かした。
(起きているだろうか……起きていたとしてあの音だ、怪我をしていなければいいのだが。あと……泣いていなければいいが……それは無理だろうな)
決戦の夜から夜明けまで……更紗が苦しみ涙を流す姿を幾度となく目にしてきた。
鬼舞辻に喰われ命を落とした多くの剣士たち、捨て身で柱たちを守ろうと鬼舞辻に刃を向けて散っていった剣士たち。
救える力があるからこそ嘆き苦しんだ更紗が、闘いから解放されたこの世界で笑ってくれるのが自分や鬼殺隊に関わる全ての者の願いだ。
その願いを早く叶えるべく今は物音1つしない部屋の前に立ち、大きく深呼吸を零してゆっくりと扉を開いた。