第25章 決戦と喪失
そう言われてもしのぶはしのぶで大変なのだ。
食材や家事全般は皆で勝手に役割分担をしてはいるが、頻繁に煉獄一家や月神一家が蝶屋敷まで足を運んでくれているのに、柱たちがこうも居座り続けると居心地が悪い。
特に更紗の両親は宿を取ったり新煉獄家で体を休めているので、蝶屋敷で寝泊まりされてはいかがかと提案したのだが……柱や剣士たちに気を使わせるからと辞退されてしまったのである。
つまり柱たちが身を引けば両親が心置き無く更紗の隣りで体を休められることを意味している。
「お義父さんとお義母さんは……目が覚めた時、自分たちだけでなく沢山の者たちに娘が囲まれていて欲しいのだと思う。我が家で何度かそういった話をしてくれた」
杏寿郎は未だに眠り姫よろしく眠り続ける更紗の頬を愛おしそうに撫でている。
そのままさせてやりたい気持ちもあるが、今は夜だ。
夜遅くに病院と言えど女子の部屋に成人男性が2人も居る事態は、娘を預かっているしのぶからすればいただけない。
「さぁさぁ、更紗ちゃんもお休みの時間です。また明日、病室にいらして下さい。煉獄さん、今日はお家に帰るのですか?」
「ん?いや、ご両親は今夜は宿に泊まられるのでここに厄介になろうと思う!」
当たり前かのようにここに滞在する2人にため息を零し、しのぶは2人を部屋から追い立てて、扉を閉める前に小さく呟いた。
「おやすみなさい、更紗ちゃん。いい夢を」
薄暗い部屋にしのぶの囁くような声は溶け込み、やがて消えていった。