第25章 決戦と喪失
「ん……杏、寿郎君。声……聞かせて。大好きって……愛してるって言って……私ね……杏寿郎君を世界で1番……愛してるよ」
先ほどまで手に伝わる温かさに心の中が満たされ自然と笑みが零れていたのに、今は杏寿郎を悲しませる自分の状況が胸を締め付け、その痛みで表情が歪み涙がとめどなく頬を流れる。
その涙は温かな手によって拭われるが次々流れ出てくるので、手を涙で濡らすこととなってしまった。
「愛している……誰よりも更紗を愛している」
そんな事気にも止めず杏寿郎は涙を拭い続け、短いながらも優しい口付けを交わしてくれる。
「……杏寿郎君、私……死にたくないよ……でも、どうすればいいのか……何かが流れ出て止まらないんです」
「大丈夫だ、珠世殿と愈史郎殿が手を尽くしてくれた。君は絶対に死なない……だからどうか諦めないでくれ」
そう杏寿郎が願った時、少し向こうで歓声が上がった。
ここまで響くそれは鬼舞辻の消滅を意味していると2人にも理解出来た。
「更紗、鬼舞辻が消滅した。もう夜に脅える必要が無くなった。君も自由に夜の道を歩ける……夏になれば花火を見に行こう。祭や日が昇る前に初詣も一緒に行こう…… 更紗としたいことが山ほどあるんだ」