第25章 決戦と喪失
「煉獄さん、行ってあげて!更紗ちゃんは俺の命の恩人なんだ!俺が助かって更紗ちゃんが死んじゃったら煉獄さんに合わせる顔なくなる!早く!」
影を求めて地面へと潜ろうとする鬼舞辻を足止めする皆から、次々と更紗の元へ向かえと言う声が杏寿郎の耳に響く。
「お願いします!もう誰も失いたくないんです!煉獄さんは更紗ちゃんの側へ行ってください!姉さんのように優しい子を助けて!」
更紗の願いは鬼舞辻の消滅……それと大切な人たちの幸せな未来だ。
大切な人たちが笑顔で何気ない毎日を過ごす姿を見る日を何より楽しみにしていた。
その本人が今まさに消えようとしている。
誰もそんな未来を望んでいない。
「すまない!鬼舞辻を頼む!」
皆の頷く顔を確認した杏寿郎は処置が今しがた終わったであろう更紗の元へと駆け寄り、微かに胸元を上下に動かす体を抱き締めた。
「更紗、更紗。聞こえるか?もうじき鬼舞辻が消える。君が望んだ通り皆生きている……どうか更紗も生きてくれ。頑張ってくれ!」
ポタポタと更紗の頬に杏寿郎の涙が零れ落ち、その僅かな刺激に固く閉じられていた瞼がピクリと動いた。