第25章 決戦と喪失
杏寿郎の悲しみを含んだ声を聞き表情を目にしたが、更紗には返事を返す余裕は残されていない。
笑みを浮かべて少しでも安心させるのが精一杯だ。
(良かった……杏寿郎君も皆さんの傷も無事に完治に近付いています。あと少し……あと少しで失ったものを元に戻せる)
先ほどから絶え間なく首筋に造血薬や栄養剤を突き立てているので、新たな物を刺す度に激しい痛みに襲われている。
だが意識の飛びそうな今の状況下で、それは更紗にとって都合が良かった。
痛みのお陰で意識を保っていられてるからだ。
(もうすぐ日の出……あと5分くらいかな?あぁ……でも私はお日様見れないな)
地面へと視線を落としそんな事を考えていると、大好きな人の頼もしい声が更紗の耳を優しく刺激し、涙がポロポロと零れ落ちてきた。
(奥義だ……ねぇ、杏寿郎君。私の体、少しおかしいの。なんだか失っちゃいけないものが体からどんどん消えていくんです……最期に……杏寿郎君のお声が聞こえただけでも幸せだけど……お顔も)
「更紗さん!力を抑えて下さい。皆さんの傷も全て治りました。鬼舞辻もあと少しで消滅します……ゆっくり、落ち着いて」
薄れゆく意識の中で助けたかった人の声が響き、意識が急浮上した。