第25章 決戦と喪失
必死に自分の有用性を説く更紗の言葉も杏寿郎の言葉も愈史郎には聞く義理はない。
鬼舞辻を倒すために鬼殺隊に力を貸してくれと珠世に言われたから今ここにいるに過ぎないのだ。
鬼殺隊隊士ではない愈史郎は完全に独立部隊で、適宜必要と思われることをしているだけである。
それは今までもこれからも変わらない。
「ふん……俺は忠告したぞ。俺もここまでで何本も使用したから予備もあと僅かだ。考えて使うんだな」
愈史郎にとって何より大事で優先しなくてはならないのは珠世ただ1人。
柱などこの戦場でなければどうでもいい存在だ。
そんな柱の中でも長期に渡って共に研究を行った更紗の方が杏寿郎よりも優先順位がほんの少し高かった。
残り僅かとなった貴重な造血薬を鞄から取り出し、フワリと微笑んでいる更紗へと手渡した。
「ありがとうございます。必ず鬼舞辻を倒して戻りますね。あの、すみません。ずっと抱えていただいたままで……私はもう回復するので、これならば貴方も杏寿郎君との約束を破ったことになりません。ご心配とご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
戦場にいるとは思えない笑みを浮かべる更紗に愈史郎はしかめ面のまま、隠は泣きそうな笑みを返す。
そうして地面へと下ろしてもらった更紗は、2本の造血薬と栄養剤を首元へと突き刺して杏寿郎の後を追っていった。