第25章 決戦と喪失
「俺より皆の治癒を頼む。皆の方が急を要するのだ……俺は最後でいい」
涙で滲む世界を見回すと、更に涙が溢れだしてきた。
片足を失った行冥、腹を抉られ顔にまで激しい損傷を負った蜜璃、右腕を失った義勇、顔面に深い裂傷を負った小芭内、全身から血を流す実弥、しのぶ、無一郎……
ついさっきまで元気だった善逸や伊之助も深い傷を負い、地面へと血溜まりを作っている。
「どうしてそんな事言うの?命に優先順位なんてない!私は杏寿郎君も皆も全員助ける!誰も死なせない……だから放して!」
「放せば更紗は俺の傷も一緒に治そうとするだろう?最後まで……君の力に余裕があると判断出来るまで治さないと約束してくれ。約束しないなら日輪刀は握らせない。君を死なせたくないんだ」
その言葉通りいくら更紗が身を捩りもがこうが、抱きすくめる力は一向に弱まらない。
「そんな約束しない!私も杏寿郎君を死なせたくない気持ちは一緒だよ?たくさんの人と交わしたたくさんの約束……一緒に守りましょう?大丈夫、私は死なないから」
「何を……」
更紗は全身傷だらけで、自分の傷を癒すことはしなかった。
造血薬や栄養剤をこの場の皆のために置いておきたかったから。
つまり日輪刀など握る必要がないということだ。