第25章 決戦と喪失
暗闇の中、心地好い温かさが全身を包みこんでくれている。
まるで穏やかな日常の朝、隣りで杏寿郎が抱きすくめてくれているかのようだ。
耳元で名前を呼ぶ声もいつもと同じく、優しくて心を温かくしてくれるもの。
だが不意に顔に温かみのある液体がパタパタと滴り落ちてきて、深い底にあった意識が浮上する。
瞼を開けて1番に目に入ったのは大好きな優しい杏寿郎の顔だった。
「更紗……良かった。何度呼んでも目を覚まさないので肝を冷やしていたのだぞ?」
いつも自分に向けてくれる優しい赫い瞳は緩やかに弧を描いているのに、覚醒したばかりの更紗の胸を激しく掻き乱した。
「杏寿郎君!吐血して……どこを……ーーっ?!」
杏寿郎の肩口から体を確認すると、つい先ほどまで追い掛けていた背中にぽっかりと穴が空いていた。
そこからは止めどなく血が流れ確実に杏寿郎の命を削り取っている。
「大丈夫だ……これくらいの傷、すぐに塞がる」
「塞がるわけない!すぐに治すから……」
治癒を施そうと意識を集中させたのに、それを阻むように唇を重ね合わされた。
血の味のする悲しい口付けはすぐに外され、変わらず優しい笑顔を更紗に向けている。