第23章 上弦と力
更紗の耳には鬼と対峙しているであろう4人の声が聞こえる。
それと共に金属音が鳴り響いているので、まだ上弦の鬼は倒せていないのだろう。
誰にも意見を求められないし、助けを願うことももちろん出来ない状況だ。
「任せてもらった……私は柱なのだから、自分で考えて行動しなきゃ」
だが鬼を治癒するなど今までしたことがないので、どうすればいいのかなど分からない。
それでも助けなければ、誰よりも玄弥を想い守り続けてきた実弥が深い悲しみにくれてしまう。
何より自分自身が玄弥を失いたくない。
「やらないで後悔するより……やってみてダメだった時に新たな手を考えます」
そう呟き、更紗は手に持っていた空の注射器を地面へと投げ捨て、代わりに日輪刀の柄へと手を伸ばして玄弥への側へと走り寄って行った。
「玄弥さん!不快かもしれませんが辛抱して下さい!貴方を失いたくない私のワガママ……許して」
半身で横たわる玄弥の側に跪き、死の淵に立たされながらも目を見開き驚く玄弥にふわりと笑みを向けて、更紗は日輪刀を鞘から抜き出して自らの腕に当てがった。
「な……にを?」
「ごめんなさい、これしか思いつかないのです」