第23章 上弦と力
唯一の救いは最早化け物と化した鬼を追い詰めている……ただそれだけだ。
「時透!玄弥少年!くそっ……俺は戦闘に加わる!判断は君に任せた!」
杏寿郎が戦闘へと身を投じるより先に、更紗は6本もの注射器を首に突き立てて薬を投与し、全力で力を発動した。
更紗の悲しみや怒りに揺れる瞳に映っているもの……それは、胴と下半身を切断された無一郎の姿、そして玄弥が縦半分に切断された姿。
実弥の肩口から脇腹までに至る深い裂傷、行冥の顔面を斜めに走る傷跡だった。
「いなくならないで!置いて……いかないでください」
鬼を避けるように炎と見粉う赫い粒子がそこら一帯に広がったかと思うと、それは傷を負った者たちの体の大きさまで縮まり、それぞれの傷を癒し分かたれていた体を繋げていく。
(力が反応してる……まだ無一郎さんは助かる。でも玄弥さんが!)
無一郎の下半身は更紗の治癒が最小限で済むよう、僅かな時間であったが杏寿郎が拾い上げ支えてくれていた。
そのお陰で無事に元の姿へと戻りつつあるが、どういう訳か玄弥の回復が他の者たちと比べて異様に遅い。
(鬼を食べて鬼に近付いたから?!どうしよう、どうしよう!このままじゃ玄弥さんが死んでしまう!)