第1章 月夜
「それでも私からすれば、やっぱり感謝の対象です。私のワガママで、こうしてそちらの方をおぶってまで外に連れ出してあげてくれましたし」
煉獄に背負われている男に視線を向けると、ほんの一瞬だけ苦しそうに眉をひそめるも、すぐに静かな表情になる。
(いまいち何を考えているのか分からん女子だな)
……きっと更紗も煉獄にそう思われるのは心外だろう。
(とりあえず、先ずはあの人を弔ってあげなくては……守ってあげられるくらい、私に戦うすべがあったらよかったのに)
だがいつまでも無い物ねだりをしていても、どうしようもない。
更紗は気持ちを切り替え、気合を入れるかのように浴衣の袖を捲りあげ、帯の下にある腰紐で垂れてこないようにたすき掛けをする。
流れるような手つきで、今よりも更に浴衣の裾を引き上げようと手を伸ばしたところで煉獄が声を上げた。
「待て待て!先程会ったばかりの男の前でする行為ではないぞ!警戒心が薄い……」
当の本人はそう言われるも、どうもピンときていないようでポカンとしている。
「毎日似たような格好で、監視されながら床の拭き掃除をしていましたよ?これが普通では無いのですか?」