第23章 上弦と力
しのぶとカナヲを任せてからさほど時間が経っていないので、更紗は間違いなく2人の傷を癒している最中だろう。
それにも関わらず疲労を全く感じさせない声音で、杏寿郎へと助言さえもこなしてみせる更紗に対して安堵から笑顔が零れた。
「分かった!分かったが……君も十分気を付けてくれ!」
そして再び元気な返事が返ってきた。
(あれほど元気なら今のところは大丈夫だろう。それならば俺は更紗が合流するまでに……奴を倒すに有効な情報を手に入れる!)
気合いを入れ直し杏寿郎が刀を構えると同時に、鬼も次の技を繰り出そうと扇を開いて構えを取っていた。
「せっかくだからくらってみなよ、血鬼術 粉凍り」
話の流れからすると、肺の細胞が壊死する血鬼術を放ってくるつもりなのだろう。
肺にまで入り込むことが可能且つ技名からして、微細な何かしらの結晶を散布するに違いない。
体内に取り込めば細胞の壊死、皮膚に付着すれば……そこも壊死することが考えられるため、杏寿郎は盛炎のうねりで今し方放たれた血鬼術を迎え撃った。
攻防一体の技であっても想像通りの微細な結晶の全てを防ぐことは困難を極めた。
鬼によってばら撒かれた赤い結晶は意思をもっているかのように、技の合間を縫って杏寿郎へとにじり寄ってくるからだ。