第23章 上弦と力
更紗がしのぶの治癒を開始した時、杏寿郎は壱ノ型で鬼との距離を一気に詰めて鬼の胴体に深い傷を負わせていた。
「酷いなぁ、いきなり斬りかかってくるなんて。俺はただあの子たちを苦しみから解放してあげようとしていただけだよ」
その苦しみを与えていたのは自分だと言うのに、その苦しみから解放してあげようとするなど、自分本位にも程がある。
誰も苦しみなど望んでいないし、その苦しみを与えてきたモノからの死などもっと望んではいない。
「胡蝶や栗花落少女の苦しみはあの子が癒してくれる。そこに君の介入は必要ない!」
この部屋へ入ってきて目にしたしのぶは、杏寿郎がパッと見ただけでも命に関わると理解出来るほどの重傷を負っていた。
それを治すとなれば更紗は迷うことなく血を流して治癒を施す。
その2つの事実が杏寿郎の神経を刺激し、目の前の鬼への憎悪が増してそれが次の技へと繋がっていった。
そんな重いはずの攻撃を鋭い光を放つ扇で受けながら、鬼は杏寿郎の怒りを逆撫でするような笑みを顔全体に貼り付ける。
「そう?究極の解放は傷の回復ではないと思うけど。それにしても、君と一緒に入ってきた子も可愛いね!更紗ちゃんって言うんだっけ?どうせ闘うなら男の君じゃなくて、あの子がよかったなぁ」