第23章 上弦と力
容態が落ち着いたしのぶに安堵し、更紗は手拭いで自身の腕から流れる血を拭い取って通常の治癒へと転換させ、しのぶを含めカナヲや杏寿郎、自分に粒子を纏わせる。
「お加減いかがですか?……破れてしまった羽織を元に戻すことが出来ず心苦しいですが」
蝶の羽を模したしのぶの美しい羽織は無残にも右側が破れ落ちており、左半分だけ肩に掛かっている状態である。
しかし更紗の憂いなんて取るに足らないと、しのぶは首を左右に振った。
「羽織は繕えば元に戻りますから。それより治癒ありがとうございます。更紗ちゃんこそ大事ないですか?」
「いえ、間に合って良かったです。私は全く問題ありません、ご心配ありがとうございます」
ニコリと笑う更紗はその言葉通り不調さは全く感じ取れず、しのぶの懸念が払拭されところで、今度はカナヲへと視線を移動させる。
「カナヲも援護ありがとう。あなたがいてくれたから、更紗ちゃんや煉獄さんが合流するまで持ち堪えられました」
ふわりと微笑むしのぶの顔は血で汚れてはいるものの、やはりいつもの如く綺麗で優しく、更紗やカナヲを魅了する。
だがそんな笑顔で癒される間もなく、更紗は立ち上がって日輪刀へと手を滑らせた。
「お2人は体力が回復するまでこちらでお待ち下さい。私は杏寿郎君の元へ向います」
2人がそれぞれ更紗へ言葉を送ってくれたように感じたが、その頃には距離が随分と離れていたので、それらは音としてしか更紗の耳には届かなかった。