第23章 上弦と力
何か言いたげに揺らめく瞳に気付かないフリをして、更紗は歪な鞄から造血薬の入った特殊な注射器を取り出し、自らの白い腕に日輪刀の刃を軽く滑らせて血を流させた。
「気分が悪くなれば仰ってください」
そうしてしのぶのみに範囲を指定して治癒を開始しつつ、その視線を杏寿郎へと向けながら腕に注射器を突き立てる。
「杏寿郎君!その鬼は肺の細胞を壊死させる血鬼術を使います!くれぐれもお気をつけ下さい!」
治癒を施しながら注射器を突き刺し、杏寿郎への助言も難無くやってのける更紗にカナヲはもちろん、しのぶも驚きを隠せずにいた。
「分かった!分かったが……君も十分気を付けてくれ!」
「はい!私は大丈夫です!」
杏寿郎から様子は確認出来ないが、その声音は自信があるからこその明瞭としたものであり、また側で様子を伺っている2人から更紗を咎める言葉が出なかったことから、本当に大丈夫なのだろうと確信して闘いへと気を集中させていった。
それを見届けた後、更紗はしのぶへと視線を戻して治癒の進行具合を確認する。
血の気の引いていた顔色は随分と良くなり、呼吸も苦しげなものから正常に戻りつつあった。
そして体に深く付けられていた切り傷はすっかり塞がっている。