第22章 開戦と分断
更紗は更紗で自室に入るなり素早く準備を整えていた。
羽織に袖を通し日輪刀を腰に差して神久夜に遣いを願う。
「このお手紙を杏寿郎君の生家へ届けて下さい。私の両親に宛てたお手紙です。今外に出ると杏寿郎君や要さんに気付かれてしまうかもしれませんので、ここを出た時にしましょう」
何か言いたそうに見上げてくる神久夜を抱き寄せ、艶やかな背に顔を埋めた。
「更紗サン……」
「ごめんなさい。神久夜さんにもいつもご心配ばかり掛けさせてしまってますね……大丈夫、私は死なないしお館様も救ってみせます。信じて」
信じろと言われてしまえば神久夜は何も言い返せない。
心配は絶えないが、今はお館様を救うために1人本部へ向かう相方を全力で援護するだけだ。
「分かりマシタ。そろそろ向カイマスカ?炎柱様はお風呂ヘ入らレタ頃かと……」
炎柱……杏寿郎の先ほどの温もりを思い出し、更紗は瞼をきゅっと閉じてから深呼吸を1つ零した。
(闘いが始まったとしても……すぐに杏寿郎君を見つけ出します。お会い出来た時に……叱られるでしょうが)
自分を叱りつける杏寿郎の言葉や顔を思い浮かべ、更紗は心の中で謝罪しながら瞼を開けて足を踏み出した。
「はい!念の為、脱衣場を確認してからにしましょう。玄関の戸を開く音が聞かれてしまっては大変ですし」
そうして更紗は神久夜を腕に抱えたまま脱衣場の確認を終え、玄関の戸を開いて屋敷の中をもう一度振り返った。
「行ってまいります……」
誰にも聞こえない声を残し、更紗は戸を締めて門の前に杏寿郎宛ての手紙を置き、神久夜を空へ放つ。
「感傷に浸っている時間はありません!急がなくては」
こうして更紗は日が落ちきる前の道を本部に向かって走り出した……杏寿郎に後を追われるとは知らないまま。