第22章 開戦と分断
そんな事を頭の中で考えているなんて夢にも思っていない更紗は、好都合にも自室へと促してくれた杏寿郎に弾けんばかりの笑顔を向けて頷いた。
「はい!ちょうど着ていた隊服の釦が取れていたので、それを繕ってお待ちすることにします!」
どうあっても廊下に転がしていた釦を、着ていた隊服のものと言うことにしたいらしい。
昼まで着ていた隊服にはしっかりついていたのにだ。
(笑ってはいけない!笑ってはあまりにも可哀想だろう!堪えろ!)
危うくウニウニなりそうな口元を叱責し、杏寿郎はどうにか平静を装って更紗の頭をポンポンと笑顔で撫でた。
「分かった!では途中まで共に向かおう!おいで」
立ち上がり更紗に手を差し伸べると、素直にその手を握り締めて立ち上がったのだが、顔を俯かせたまま杏寿郎の胸の中へ身を滑らせ背中へと腕を回した。
「杏寿郎君、大好きです」
別れを惜しむかのような声音や行動に、これから何が起ころうとしているのかある程度掴めてしまった。
(まずいな……お館様の命の危機に加え闘いが始まりそうだ。父上に事前に協力を取り付けておいてよかった)
今からしなくてはならない事を頭の中で巡らせ、杏寿郎は小さく体を震わせている更紗を抱き寄せる。
「俺もだ。ずっと何があろうとも更紗を愛している」