第22章 開戦と分断
日があと一刻ほどで沈むという時刻になり、杏寿郎がそれに気付かないフリをするのが困難なくらいに更紗がソワソワしだした。
(さぁ、どう出る?俺に風呂を勧めるか……それとも道場で鍛錬を続けると言うのか)
居間に座り更紗を後ろから抱きすくめながら様子を伺っていると、意を決したように体を反転させ、強い意志のこもった瞳で杏寿郎を見つめた。
「どうした?そんな戦場に赴くような顔をして」
「い、いえ!お風呂を先にどうぞと思いまして」
(こうも想像通りとは思わなんだ……)
今まで何度も更紗から風呂を先にと言われたことのある杏寿郎だが、こんなにキリッとした表情、昂った口調で言われたのは初めてである。
明らかに様子がいつもと違うのに、これで本人がいつも通りだと思っているのだから杏寿郎も反応に困ってしまう。
(……ここまで隠し事が苦手な女子もいるのだな……仕方ない、無闇に引き止めて何かに間に合わなければ本末転倒だ。乗るか)
「あぁ。そうさせてもらう。着替えなどの準備をするので、更紗は部屋でゆっくり待っているか?」
敢えて更紗を自室へ誘導するのには訳があった。
どう出るか判断が付かなかったので、杏寿郎の荷物は全て自室に纏めているのだ。
つまり更紗を部屋へと追い立てなければ、自分の荷物を風呂場へ持って行って準備することが叶わなくなってしまうのである。