第21章 秘密と葛藤
「カナヲ、こちらへいらっしゃい」
3人が声のした方……しのぶへ向き直ると、カナヲの事が大好きだと分かる穏やかで優しい表情をしてカナヲを手招きしていた。
「更紗ちゃん、炎柱様、また後ほど」
そしてカナヲも頬を薄紅色に染め、更紗が愛してやまない花のような笑顔を咲かせしのぶへと駆け寄っていった。
「元気になられてよかったです。カナヲさんは笑顔が1番可愛らしいですから」
更紗の出すほのぼのとした空気につい飲まれそうになるが、杏寿郎はどうにか気をしっかり持ち、緩んでいる頬を両手で強めに挟んだ。
「君も同じだ。俺に言えないことがあっても構わない、悩んで昨日のように落ち込んで甘えてきても構わない。だが家には帰ってきなさい。頼むから1人で雨に濡れて蹲らないでくれ。こうして撫でてやることすら出来ないだろう?」
頬を挟んでいた手は更紗の顔の横にある後れ毛をかきあげ、そのままふわりと頭へと滑っていく。
口調や表情は厳しさをたたえているが、それに反して頭に触れる手は労わるように優しく、更紗の胸が罪悪感でチクリと鋭い痛みをともなった。
「ご心配をおかけして……申し訳ございません。杏寿郎君に会いたくて仕方なかったのですが、頭も胸の中もぐちゃぐちゃになってしまって……ご心配をおかけしたくなくて」