第21章 秘密と葛藤
風呂に入っている時はもちろんだが、現在居間で寛いでいる間も更紗の甘えた攻撃は続いている。
(ふむ……まるでひっつき虫のようだな。いや、行く先々に着いてくるのは途方もなく愛らしくていいのだが、ここまで長引くのは珍しい)
街中で蹲っていた時よりは落ち着いてきているようだが、未だに更紗は杏寿郎の胸の中に体を預け、離れまいとぎゅっとしがみついている。
何が原因でこうなったのか……杏寿郎は皆目検討がつかないので、ただ更紗が望むようにさせてやっているのだが、やはりここまで不安定たらしめた要因は気になってしまう。
聞くか聞くまいか……悩んだ末、今は取り敢えず心の安寧を取り戻させてやるのが先決だと、杏寿郎は更紗を強く抱き寄せそのまま畳の上に寝転がった。
「寒くはないか?冷えるならば上に掛けるものを持ってくるぞ?」
「ううん、寒くない。杏寿郎君がこうしてくれてるから。ずっとこのままいられたら幸せなのに……」
ーー大切な人がただ生きていてくれたら治癒能力を捨てることも厭わないのに……
言えない言葉を心の中で呟き、更紗はただ自分を甘やかし続けてくれる杏寿郎の胸元へと顔を埋め、緩まりそうになる涙腺を引き締める。
「そうだな、このまま穏やかに過ごせるなら何より幸せだ」