第21章 秘密と葛藤
初めこそ緩慢な動きだったのに、服を脱ぐにつれて寒くなったのか恥ずかしくなったのか……脱ぐ速度が一気に上がったからだ。
「ふっふふ……んんっ!更紗、慌てて足を滑らせぬようにな!怪我をしては大変だ!」
僅かに笑い声が漏れてしまったが、それを打ち消すように咳払いをして誤魔化し、さも笑っていませんよ、心配しているだけですよ。と思わせる言葉を出した。
いつもなら笑われたことに気付き顔を赤らめていただろうが、今は何分心が不安定なのでそれに気付いてはおらず、杏寿郎はこっそりと安堵のため息を漏らす。
「大丈夫……です。早く入って来てね?」
密かに肩を揺らす杏寿郎に念押しをして、ようやく更紗は浴室内へと姿を消していった。
「……いかんいかん、笑っては可哀想だ。……さて、不安定で甘えてくる更紗からの催促が来る前に」
「杏寿郎君……」
まだ1分も経っていない。
例え着流しだとしてもそんなに早く脱ぐことは出来ないが、寂しげに小さく自分を呼ぶ声が幼子のようで、杏寿郎の目が優しく細まる。
「もう入るのでそう寂しい声を出さなくて大丈夫だ。風呂は気持ちいいか?」
着物を脱ぎながらも更紗が寂しい思いをしなくて済むよう、浴室に入るまで声を掛け続けた。