第21章 秘密と葛藤
「離れていかないで。一緒に入ろうよ」
先ほどまではどんな顔をして会えばいいか分からず街中で蹲るという突拍子もない選択を取った更紗だが、いざ目の前に杏寿郎が現れるとやはり触れていたくなったのだ。
その胸の内には自分たちから離れようとしているお館様がチラつき、余計に離れるという行動に恐怖を覚えているのかもしれない。
「分かった。直ぐに入るので、先に浴槽に浸かって待っていてくれ。ほら、いつまでも濡れた服を着たままだと体に悪い。後ろを向いているので、早く隊服を脱いでしまいなさい」
杏寿郎はお館様の今の考えを知らないので訳の分からない状況だろうが、それでも声を荒立てず更紗の体を無理矢理離すことはせず、自ら離れるのを辛抱強く待っていた。
「うん……絶対すぐに入ってきてね?」
見上げてくる更紗の瞳は不安に揺れ、涙は流していないものの酷く悲しんでいるように杏寿郎には映った。
「絶対だ。安心しろ」
力強くも優しい声音に更紗はようやく安心したのか、杏寿郎から体を離し後ろを向いて服を脱ぎ始めたので、約束通り杏寿郎は後ろを向いて待機する。
服を脱ぐ音が杏寿郎の耳に届いているが、思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えている。