第20章 柱稽古とお館様
大きな声に肩をビクつかせながら更紗は言われた通りに薬を持って実弥の元へ駆け寄り手渡す。
それを無言で受け取ると中身を一気にあおり空瓶をポイと投げ捨て、再び杏寿郎と稽古をするために木刀を構え直した。
更紗は慌てて放り投げられた空瓶の後を追いながらも実弥へ体調の確認を忘れない。
「大丈夫ですか?辛いところはないですか?」
「すこぶる調子はいい。なるほどなァ、てめぇらが言ってたことがやっと分かった。お前は危ねぇからそのまま離れてろォ!巻き添えくっても知らねぇぞォ!」
空瓶を追い掛ける更紗を視界の端に映しつつ構えた木刀を振り上げ、見る人から見れば狂気に映る笑みで顔を満たした実弥は、杏寿郎へと先ほどまでより格段に上がった威力の技を仕掛けていった。
「更紗の心配をするとは偉く余裕だな!」
そして杏寿郎も杏寿郎でそれを楽しんでいるように見える。
元々が別次元の闘いだったのに、痣者となった柱2人の闘いはもうそこだけさながら小さな自然災害で、本当に炎が顕現していれば辺り一帯焼け野原と化していただろう。
「棗姉ちゃん……私はまだまだのようです。私には自然災害は起こせそうにありません」
小さな呟きに応えるように優しい風が更紗の頬を撫で、まるで棗がそうだね、と笑っているように感じた。