第1章 月夜
歩を進めながらも煉獄は更紗の発言に目を丸くする。
首を少し後ろへ巡らせ更紗の様子を見てみると、小刻みに震えながらも深呼吸をしてしっかり目を開け前を見すえていた。
(普通の女子だが気丈だな)
「そうか!だが俺に遠慮しなくていい。辛くなったらいつでも頼ってくれ」
すると更紗はコクリと頷く。
「その時は、よろしくお願いします」
「うむ!少女1人を守るくらいの力量はあるからな」
煉獄は微笑むと視線と意識を元に戻し奥へと進んでいく。
(それにしてもここは少女の家なのだろうか?だとすれば、庇ってくれた人、と言うのはいささか他人行儀な感じがするが)
奥へ奥へと逃げたのだろう、入口付近と比べ物にならぬほど鬼に食い殺された人の死体が増える。
ほんの少し前まで生きていた人達が今はむせ返るような死臭を漂わせ、様々な部位を失って横たわっていた。
それでも地獄のような世界を一歩一歩確実に進んでいた更紗の足がピタリととまった。
それを感じ取った煉獄が振り返ってみると、元々の色白の肌を……青白い顔色へと変化させた更紗がいた。
柘榴石のような瞳には溢れんばかりの涙をため、ガタガタと体を大きく震えている。
視線はズタズタに引き裂かれ事切れた男に降り注がれていた。