第20章 柱稽古とお館様
「もっと他に例えがあっただろう……君も更紗相手だと楽しそうにするので喜ばしいことだが、少しあの子が不憫だ」
少し嗜めてみるも実弥は悪びれる様子はなく、ずっと機嫌よく笑っているだけだ。
「あいつにはあれくらいの印象つけてた方が安心だろォ。ただでさえ人に対しての怒り方を何処かに忘れてきたみてぇだからなァ。てか、いつまでも俺とくっちゃべってねぇで様子見てきてやれ。恐らく半泣きくらいなってるだろうからなァ」
「それはいかんな!ここで待っていてくれ、すぐに保護してくる!」
笑い続けている実弥を部屋に残し、杏寿郎は剣士たちに勘違いされて蹲っていると想定される更紗の元へ早足で向かう。
そして玄関を出て稽古場に体を向けた瞬間に、剣士たちの安堵するようなちいさな歓声が鼓膜を刺激してきた。
「む?雰囲気は和やかに感じ取れるが…… 更紗の声は聞こえて来ない」
何にしても更紗が困っていることには違いないはずだと、歩幅を広げて稽古場へ急ぎ状況を確認すると……子供のように蹲る更紗の周りを剣士たちが笑顔で取り囲んでいた。
その様子が微笑ましく、杏寿郎はホッと息を零してゆっくり顔を腕に埋めている少女へ歩み寄り、地面に膝をついて背中をさすってやった。