第20章 柱稽古とお館様
「俺のことはいいからよォ、てめぇの姫迎えに行った方がいいと思うぜ?」
更紗が部屋を出ていくまで手の付けようがないほど不機嫌を全身で表していた実弥は、それまでとうってかわって機嫌よく喉を鳴らして笑っている。
あまり可笑しそうに笑う実弥を見たことがなかった杏寿郎は、少し嫌な予感を感じながら首を傾げて言葉と態度の意味を確認した。
「更紗に何かあるのか?あの件はもう済んだので、危害を加えられることはないと思うが……そしてなぜ君はそんなに楽しそうなのだ?」
「あいつにとって害があることは何も起きてねェよ。ただ、剣士たちを脅してやった。あいつを使ってなァ」
ここに来てから更紗は特に脅しに使えるような言動をとっていないので、杏寿郎からすれば謎が深まるばかりである。
「あの子に脅せる要素は皆無だと思うが……剣士に何を言ったんだ?」
「あいつの普段を見てっと脅せる要素は全くねぇがなァ。大人しい奴ほど怒ると怖ぇって言うだろ?だから金輪際変なちょっかい出されないように……月神は盾突く奴は片っ端から頭蓋が陥没するほど踵落としをくらわすと真顔で言ってやった。効き目凄かったぞ」
今頃顔を真っ赤にしているであろう更紗の姿を思い浮かべ、杏寿郎は遠い目をしてため息をついた。