第20章 柱稽古とお館様

「目の前で女子が胸ぐらを掴まれ地面に叩き付けられる姿を見て、誰も動こうとすらしなかったからだ。君や竈門少年たちなら手を上げた剣士を止めるか、地面に叩きつけられた者の元へ向かうだろ？」

つまり事情を知っていて敢えて口を出さなかった柱2人とは違い、同じ身分で止めに入ろうと思えば入れた剣士たちが動かなかったことに対して罰を与えたらしい。

「そうでしたか。私は目の前のことに精一杯で他のことに気が回らず何も思っていませんでした。でも流石に次に戻られた時には治して差し上げてもいいですよね？何名かは骨にヒビが入っていそうでしたし……」

自分はどうにか実弥と打ち合いをしてもかすり傷だけで済んだが、きっと今しごかれている剣士たちはそれこそ死ぬ思いで稽古に励んでいるはずだ。
それを想像するだけで更紗の方が痛みが全身に走ったように感じ、無意識に眉が寄ってしまった。

目の前でコロコロと表情を変える更紗に呆れたように笑い、杏寿郎は痛みを想像して顔を歪めている少女の体を抱き寄せる。

「そうしてやってくれ。その後は不死川と俺が稽古をするが、君も見学するか？」

思わぬ嬉しい提案に更紗は目を輝かせて下から杏寿郎の顔を見つめた。

「はい！ぜひ見学させて下さい！柱同士の稽古なんて想像も付かなくて楽しみです！」

無事に更紗の笑顔を愛でるまでに落ち着きを取り戻した杏寿郎は、この後怒り心頭で戻ってくるであろう実弥をどう落ち着かせるかに頭を悩ませた。