第20章 柱稽古とお館様
「杏寿郎君に手当していただくのも懐かしくて捨てがたいですが、全身包帯まみれになっちゃうので諦めます」
小さく笑いを零したかと思ったら、本当に一瞬で全身の傷がなかったかのようになってしまった。
残ったのは傷のまわりについていた血の跡だけだ。
「自分の傷はこうも早く治せるようになったのだな。痛みは残っていないか?」
「はい、大丈夫です!ですが靴下が破れてしまったので履き替えます。予備をいくつか持参しているので」
見せるようにヒョイと片足を上げる仕草が何とも杏寿郎の気持ちをくすぐり、顔の強張りが一気になくなった。
「そうか!では後ろを向いているので履き替えるといい!急ぐ必要はないからな」
ゆっくり床へ下ろしてもらうと、ようやくいつもの笑顔に戻った杏寿郎に胸をなでおろし、後ろを向いてくれた瞬間に荷物から靴下を取って履き替えた。
「もう大丈夫ですよ。あの、1つお聞きしたいことがあるのですが構いませんか?」
「速いな……ん?なんだ?」
振り返った杏寿郎は更紗の履き替えのあまりの速さに目を丸くしつつ、笑顔は失われていなかった。
「なぜ剣士の方々全員の怪我を治さなかったのでしょう?揉め事を起こしたのは私ともう1人の方だけでしたよね?」