第20章 柱稽古とお館様
先ほどの剣士の行動はむしろ向こうの立場からすれば当たり前のものだと思っていたので更紗は全く気にしていなかったが、確かに杏寿郎と自分の立場が逆だったなら怒っていたかもしれない。
抱き上げられて近い位置にある杏寿郎の頭を、いつも自分がしてもらっているように撫でてみる。
「怒ってくださってありがとうございます。でもどうか彼を怒らないでください。きっと本当に大切な方を亡くされたのですよ」
子供扱いするなと叱られるかもと思ったが、思いのほか表情が穏やかになり更紗はホッと息をついて首元に腕を回しギュッとしがみついた。
「それに私が押し倒される時に杏寿郎君や実弥さんが庇ってくださっていれば、もっと彼は怒っていたと思います。だから杏寿郎君が実弥さんを止めてくださった時、心の中で感謝していました。私のワガママを受け入れてくれて……ありがとう」
穏やかな口調と頬に当たる柔らかな髪が杏寿郎の心を凪いでいき、胸の内で燻っていた苛立ちが徐々におさまっていく。
それに伴って周りを見る余裕が出てきたので更紗の体に目をやると、小さな傷が所狭しと付いているのが映った。
「礼を言われることは何もしていない……先に自分の傷を治せるか?余りに痛々しい。疲れているなら俺が手当てしてやるから言ってくれ」