第20章 柱稽古とお館様
実弥に追い立てられる剣士たちの悲壮な悲鳴を聞きながら、更紗は杏寿郎に促されるまま屋敷の中へ足を踏み入れた。
だが屋敷の中に入って玄関の戸を閉めても剣士たちの悲鳴が聞こえ、堪らず杏寿郎へ向き直った。
「せめて治癒を施して差し上げられませんか?あの傷では稽古に身が入らないと思います!」
「必要ない」
その声は更紗がヒヤリとするほど怒りが込められており、食い下がることが出来なかった。
「あの……私、杏寿郎君を怒らせてしまいましたか?何か……」
見るからに落ち込む更紗の表情が杏寿郎の胸を締め付け、抑えていた行き場のない怒りが頭を満たしていく。
「違う、君に憤っているのではない……だがこの憤りは更紗に鎮めて欲しいと思っている」
キョトンと首を傾げる更紗に苦笑し、杏寿郎は傷だらけの体を抱き上げて、悩むことなく廊下を進み屋敷の一室へと入って襖を閉めた。
「杏寿郎君?どうされましたか?どうして怒っていらっしゃるのですか?」
「好いた女子を傷付けられて腹を立てぬ男はいないだろう……押し倒される前に守ってやれなかった自分にも腹が立っているが」